映画「ソング・オブ・ラホール」 パキスタンの音楽職人たちからすべての音楽を愛する人たちへ


©2015 Ravi Films, LLC

●世界を駆け巡った<テイク・ファイヴ>

数年前YOU TUBEで、とある<テイク・ファイヴ>が話題になった。プロモーション・ビデオに出演していたのは、パキスタンのサッチャル・ジャズ・アンサンブル(名前は編成によって変化する)。

録音場所は、実業家が私財を投げ打って設立した音楽スタジオ。 メンバーはゆえあって“細々と”音楽活動を続けてきた音楽家たち。 何より伝統音楽に携わってきたメンバーにとって、異国のジャズは初挑戦だった。

少しばかりせっかちに響くタブラ、主旋律を綴るシタール。ストリングスが流れ込むときには、胸がざわざわする。

奇をてらったから注目されたのではない。 心にまとわりついた埃を、さらりとぬぐい去るような気高く優美な演奏なのだ。

このどこにもなかった<テイク・ファイヴ>は、デイヴ・ブルーベックの目にとまるなどしながら世界中に伝播。再生回数は100万回を数えている。 頑なな職人たちの再起を助けたのがインターネットであったというのも面白い。

https://www.youtube.com/watch?v=GLF46JKkCNg

●サッチャル・ジャズの背景

この映画は、そんな彼らがウィントン・マルサリスに招かれ、ニューヨークのリンカーン・センターで世界最高峰のビッグ・バンドと共演を果たすまでのドキュメンタリーだ。

忘れ去られようとしていた楽士たちが再び脚光を浴びる・・・・・・と聞くと、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を連想する人もいるかもしれない。だが、背景はもっと複雑だ。

パキスタン・イスラム共和国のまち、ラホールはかつて映画産業が盛んだった。 出演する楽士たちの多くも、映画音楽で活躍していたらしい。

しかし、1970年代末にイスラーム化の波が押し寄せ、 90年代にタリバンの支配が進むと歌舞音曲を抑圧。

すばらしい才能を持つ音楽家たちも、転職を余儀なくされてしまう。 そればかりか、音楽を聴く人たちまで姿を消してしまったという。

音楽という存在は、考えている以上に脆い。

さらに彼らは、カーストでいうところの不可触民に属する世襲制の楽士だ。

好むと好まざるにかかわらず、楽器を習得し修練を積まなければならないし、拍手を送られることはあっても、決して尊敬される存在ではない。

加えてイスラム教徒の中でもスンナ派が多数を占めるパキスタンにおいて、彼ら楽士にはシーア派が多いという。それだけで立場は不利だ。

「自分が痛みを抱えていないと、魂のこもった演奏はできないんだよ」 と語るバーンスリー(竹笛)奏者のバーキル・アッバースの言葉は重い。 好きだから音楽やってます、といった関わり方とはまったく違う。

彼らにとっては音楽で生きていくことは使命である。 そのため伝統音楽を絶やしてはならないとの思いは、私たちが考える以上に切実だ。

時に滑稽なまでの生真面目さには、こうした背景がある。

そしておそらく、私が<テイク・ファイヴ>から感じたの気高さの元も。

●リハーサルは、まれに見る緊張感!

映画のハイライトは、ジャズで一念奮起した彼らがニューヨークへ乗り込み

マルサリスのビッグ・バンドとのリハーサルだろう。 「私たちの即興演奏を欧米人はジャズとしてやっているんだ」。

フィフティフィフティの気持ちで臨んだものの、 言葉は通じないわ、譜面の書き方は独特だわ、リハの進め方にとまどうわで、一曲として完成を見ない。

さらに、サッチャル・ジャズにプライドがあるように、アメリカのミュージシャンにもジャズをの歴史を背負うプライドがある。 リハは、厳しい。ピリピリとした空気に、ただでさえ笑顔の少ないサッチャル・ジャズの面々の表情がどんどんこわばっていく。 そして迎えた本番で、彼らがみせた底力・・・・・・!  一人ひとりの表情が、この音楽ドキュメンタリーの成功を物語っている。 あたりまえに繰り返されていく音楽との日常に ぽんと石を投げ込んでくれるような映画。

音楽を演奏する人も、聴いて楽しむ人も、受け取るものがあるでしょう。

監督は、人権や女性問題をテーマにしたドキュメンタリーを多く手掛け、今年2度目となるアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞したシャルミーン・ウベード=チナーイと、ニューヨーク在住のアンディ・ショーケン。

パキスタン生まれのウベード=チナーイと、アメリカ人の目からパキスタンの問題に触れたショーケン。 男女2人の視線が、あたたかくサッチャル・ジャズの面々を見つめる。

公式サイト

http://senlis.co.jp/song-of-lahore/

監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ 出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブル/ジャズ・アット・リンカーンセンターwithウィントン・マルサリス 配給:サンリス、ユーロスペース 8月13日(土)公開

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◆9月初来日公演決定! (9月3日 TOKYO JAZZ) 渡航費に支援を! あの面々がTOKYO JAZZに出演! 現在、メンバーの渡航費、宿泊費などに関する支援を受け付けています。

出演は9月3日(土)東京国際フォーラム the PLAZA  無料です

https://motion-gallery.net/projects/song_of_lahore

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◆コンパニオンCD発売中!

●ザ・サッチャル・アンサンブル 『ソング・オブ・ラホール』

(ユニバーサルミュージック UCCU-1520)\2,500+税

http://www.universal-music.co.jp/p/UCCU-1520/

彼らに感銘を受けたミュージシャンたちとの競演。スーザン・テデスキ&デレク・トラックスとはディラン<嵐からの隠れ場所>を。アラン・トゥーサン<イエス・ウィ・キャン・キャン>の独特なビートは新鮮です!