地方都市にあるような店を作りたかった バイユーゲイト上田有インタビュー

(前編から続く) ――バイユーゲイトという店の魅力をどう考えますか。 ●バイユーでライブを観る面白さというのはあると思っています。思い上がりかもしれないけど、出演者自身にバイユーでこんなことしたい!というものがある。  マニアしか受け容れない店ではないので、明確な意志があり、真剣に楽しみたい人ならパンク・バンドでも歓迎します。

 ただし、自分が企画した出演者を優先させて頂かざるをえませんし、対外的に全てのライブを熱烈に推すことはできないです。そこさえ理解しれくれれば、バイユーで楽しんでほしいです。

 僕自身は、自分でブッキングしたからには、ミュージシャンに集客してくださいと頼んだことは一度もありません。来週の出演は○○です、といった形式的なアナウンスもしたくない。もちろん、呼びかけたから集まるというほど甘くはないです。  「今回は集客できずにすみません」と謝るミュージシャンの方も時にはいますが、こちらの宣伝の仕方も悪かったのかもしれません次は一緒に考えましょうと言います。逆に店がそういう気持ちでやっているのに、一緒に宣伝努力をして下さらない方とはちょっと難しいです。

――有さんがブログに書くライブのレポを楽しみにしている人も多いようです。 ●あれは、店を始めた時に続けようと決めていました。あっさり書くと、がっかりされてしまいそうですが、あそこで嘘をつき始めたらダメだと思ってます。ただ店でお会いする時は、分け隔てなく真剣に接するように心がけています。  最近は熱量を抑えようと思ってはいるんですけど(笑)。 ――確かになんでもかんでも感激しましたとは書けないでしょうね。 ●無秩序じゃない、おおらかさというかね。僕はゆるい音楽は好きですが、基本的に“ゆるい”のが好きじゃないので。  3年目の終わりだったかな。お客さんたちが中心になって、完全に僕の手の離れたところでイベントを組んだことがありました。その時、ある方が「こんな場所を作って遊ばせてくれてありがとうございます」って言ったんですよ。それを耳にした時、ああ良かったのかなって。  僕自身、どうすれば僕の手の届かないところで何かを生み出してくれるような雰囲気ができるのかなって考えているところがあります。最近少しずつ“場”っぽくなってきたかなと。 ――楽しいイベントでも、そこはセッションではないんですね。 ●セッションをやれば、人が集まるよと言われたこともあります。確かに悪くないけど、うちは違うかなと。たとえセッションでも打合せをしてやりますね。もちろん厳選したメンバーによるスリル溢れるセッションなら別ですが。 ――バイユーならではの“場”の力は、そうしたつながり方から生まれているのかもしれません。

●サポートしてくれた方は何人かいましたが、この10年間でメイン的な従業員は僅か3人、そのうち2人は今も支えてくれています。僕が入ってほしい時に入ってもらうという、都合のいいやり方にもかかわらず(笑)。

 人徳ですねと言う人がいるけど、残念ながら人徳じゃないんですよ。良い店主のいる良い店のバイトが長続きしなかったりするじゃないですか。ある程度の人徳と、あとは運なんですよ。僕はそうした人との出会いで運を使い果たしているので、火事でチャラにしたのかもしれません(笑)。

――有さんは、下北沢のSTOMPや、阿佐ヶ谷のチェッカーボードで働いていたこともあるそうですが、自分の店を持ちたいと思ったのもそのあたりがきっかけですか。

●STOMPで働き始めたのは21歳の時。途中から一人でカウンターに入ったりして、「一度来てみたかったんです」なんて言うお客さんの相手をするんです。複雑な思いもありましたね。

 後半は、並行してPヴァインにお世話になったりした後、この先様々な立場の方が楽しめる店をやりたいなら、お客様で一番多いであろう会社員の方の気持ちも知らないとダメだなと思ってサラリーマンを約7年間経験しました。それからまた別の会社に勤めたり。チェッカーボードでは2000年からバイユーを始める直前(2005年)まで働いていました。後半はフリーでイベント制作の仕事をしたりもしていました。

 そうした経験の中で僕なりの場の作り方、お客さんとの距離感で、自由に遊べる、自分が行きたくなるようなライブスペースを作りたいと考えるようになったんです。

――その結果、生まれたのがバイユーゲイトだった。 ●最初に考えたのは、地方都市でやってるような店にしたいなと。電車に乗ってわざわざ通ってくるというより、近所のお客さんがなんとなく見つけて集まってくるような。 

 開店当初チラシもまいたりしなかったし、しばらくは看板も出していなかったんです。阿佐ヶ谷(のチェッカーボード)にいた有ちゃんが、故郷の高知に帰って開いたみたいな感じにしたかった。実際、高知で店を開こうかと探したこともあるんですよ。

 きっかり丸一年かけて探しました。バイユーって、扉を開けると廊下があってニューオーリンズの店みたいでしょう? (右写真がその出演者の歴史を刻む廊下。幸いここは放水の被害を免れた。撮影時は改装工事中のため荷物の整理中)  いくら不動産屋さんに「上田さんの示した条件は全部そろっています」と言われても「相場より安いですよ」と言われても、僕がピンとこなければ契約できなかった。物件探しが目標になってはダメだと、何度も自分に言い聞かせて。  通常ならあり得ない12月後半オープンの理由もそのあたりにあるんです。

――看板も出さなかった?!お客さんが来たんですか。

●ちょっとずつ。最初は、たまたまつながりのあったギタリストのJOJOサワドさんが「三鷹にいい店ができたよ」と年賀状に書いてくれて。ただ、店の名前も書いてなければ、三鷹駅北口だとも書いてなかった(笑)。それでようやく1月末とか2月になって、見つけた人たちが少しずつ来るようになったんですね。

――その後は順調でしたか。 ●好景気の影響も受けないけど不景気の影響も受けないと思っていたら、リーマンショックの後、常連さん以外の近隣の企業のグループなんかが激減したりして急に苦しくなって。  一方で、10年目に向け成熟してきて、雰囲気は最高だなと思っていたんです。同時に、どこに“てこ入れ”していいか分からなくなっていた。そこにあの火事でした。

――居心地良さの一方で、危機感も持っていた? ●バイユーって、ちょっとした言い争いはあっても、誰かが暴れたことはないんですよ。「客筋がいいですよね」と言われることが本当に多くて、誇らしい気持ちです。でもその反面、ちょっと保守的な場になってるのかなという警戒感もあって。  あのままいってたら、煮詰まっていたかなとの思いもあります。決してポジティブに考えているわけではないのですが、そういう意味では、火事はリセットする良い機会になったのかもしれません。

 まずは失われた一年を取り戻すためにも、悪態をつきつつ(笑)続けていきます。続けていれば、楽しいことがあるはずだと思っているんです。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ バイユーゲイト http://bayougate.voxx.jp/ 東京都武蔵野市中町1-17-2 (中央線三鷹駅北口徒歩1分) 営業時間:18:30~midnight (日曜定休)

問合せ Tel.0422-55-5782

☆ライブは週末だけ。基本はノーチャージの音楽飲み屋さんです。