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マダム・ギター長見順インタビュー前編 ユートピアから生まれた『在庭坂』


マダム・ギターこと長見順がこの夏『在庭坂』をリリースした。マダムギターパンダ、パンチの効いたオウケストラのアルバムはあったがソロとしては『ギターマダム』(Pヴァイン)以来9年ぶりとなる。

現在は福島市の山あいに暮らしながら、ギターを手に歌い歩くマダムギター。在庭坂とは今暮らすその土地の名前だ。

本作からは、より自由になった“長見順”を感じる。基本的な作風は変わらないのだが、気のおけないミュージシャンに囲まれ、どこか身軽になった印象を受けた。それでいてブルージーなのだ。

実は筆者は同世代。ブルースに出会い共に歳を重ねてきた中での、ざっくばらんな語り口も交えながら、新譜そして最近の心境をお届けしよう。

◆シカもいればクマもいる。在庭坂はユートピア

――『在庭坂』からは、ギタリストとしてもアーティストとしても、より自由になった印象を受けました。自分をこう見せたい、あるいは壊したいという部分から解放されたような。

時の流れもあるんですかね。ギターはますます好きになっているけど、ここでソロを弾いてやろう!みたいな根性がまるでなくなったんだよね。たぶんマニアには、ブルースじゃないとか、ギター弾いてないとか怒られる(笑)

――確かに曲調はブルースではない。でも今回はいつも以上に、マダムの根っこであるブルースの部分がより鮮明な感じがしましたよ。

ブルース・アルバムにはすごくあこがれているけど、モダン・ブルース・アルバムじゃないんだよね。具体的に言うとライトニン・ホプキンスのようなディープなもの。人間の質っていうのかな。常にそういうものが出るといいなというあこがれはあるんだよね。

――質ね! ナチュラルに長見順を感じたという点では“質”が出てきたのかもしれない。前作からのおよそ10年間で、東京から福島に拠点を移し、東日本大震災もあったし、女性としても変化の多い時期だったでしょう。

そうだねえ、まさか自分が被災者になるとは思わないよね。放射能がくるかもしれないから家から出ないでと言われたりしてね。これからどう生きていったらいいのか考えるよね。1回死んだくらいに思ったし、やらなきゃいけない!という眠っていた気持ちが表に出た。旗をあげなきゃいけないと思うようになって。

――福島ではPROJECT FUKUSHIMAと連携して「クダラナ庄助祭り」を主催したり、旗は十分あげていますね。

自分がイベントの主催者になるなんて思いもしなかった。存在意義は変わってきているし、祭りなんかうるさいと思っている人が大半かもしれない。でも町が楽しくならないとね。だから、うるさいと言われても発信することはやめちゃいけないと思ってる。

――そういう意味でも在庭坂という拠点を得て、立ち位置がしっかりしたことが作品にも反映されたんじゃないですか。「アンダーグラウンドユートピア」という副題が付いていますが、どんな所なんでしょう。

いいところだよ~。福島市内には「町庭坂」と「在庭坂」があって、在の方はど田舎で、サル、シカ、それにクマも出る。アルバムにいれた「レゲエ熊」ちゃんも本当にいるんだよ(笑)。ジャケットの衣装も福島で知り合ったお花屋さんが、拾ったものやマタギの人から借りたものでオブジェをささっと作ってくれたのね。 確かに冬は大変。でもそのうれしさがあるのよ。うーん、溶け込んではないかな。やっぱり “在”の人ではないからヨソモノ感はあるし、寂しさはあります。ただここに自分なりのユートピアを作っていきたいのね。

――そもそも東京から自然回帰で移住したわけではないですよね。

うん、昔に帰ろうというノスタルジーとも違うしね。でも重なる要素はあって、縁あって住んだこの場所を特別な地にしたい。この地を守っていきたいっていう気持ちはあるんだよね。

――今回の作品はホーン、スティールパンなどを含む40人ものミュージシャン(※)が参加しています。これもまたこの10年間に培ってきた人間関係の賜でしょう。大所帯の作品は大変だったでしょう。(※近藤達郎、ワダマコト、早川岳晴、かわいしのぶ、GRACE、浦朋恵、高橋香織、向島ゆり子、JUJU井上、土生“TICO”剛、池袋盆BANDほか)

会津マスクワイアはじめ、福島に来て出会ったメンバーもいるし、ほんとに楽しかったよ。経費は大変だったけど(笑)それ以上のものがあった!

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