マダム・ギター長見順インタビュー後編 ユートピアから生まれた『在庭坂』

◆歌からメッセージは出していきたい
――ソウル、音頭、レゲエと多彩なエッセンスを感じる中で、エタ・ジェイムズの「At Last」を想像させる「ピンクのシャドウ」などアレンジの妙も感じます。共同プロデューサーでもある近藤達郎さんの力も大きいんですか。
「ハナウタ」はHiサウンドを意識しました(笑)。あの曲はギタリストのワダマコトくんのアドバイスも大きかった。アレンジや構成は基本的に私で、大ちゃん(近藤達郎の愛称)は丁寧に話を訊いて曲を大切にして提案してくれるのね。
――近藤さんは歌に寄り添ってくれるプレイヤーという印象があります。今回も印象的なテーマの歌が多かったんですが、歌を作るときに意識していることは?
言いたいことがいっぱいあって、実はメッセージなんだよね。フザけてるようだけど、案外、社会派かもしれない(笑)。たとえば「G.I.ブルース」は沖縄の婦女暴行事件がきっかけで作りました。ただ、原発反対を表明するにしても、昔の世代とは違う表現で伝えたい。直接的な言い方はせずに伝えたいのね。
――たとえば「ごみ」だとか「クソ女」といったモチーフを見ると、自分がイヤだと感じることを歌っているようにも見えます。
バカな女を歌うにしても自分なのか他人なのか分からないようにしながら書いている。メッセージは出したいけど、自分の角度から直接見たものを伝えるメッセンジャーのような立場は好きじゃないのよ。
――歌詞をじっくり聴くタイプの曲ではないけど、サウンドとして聞こえてきますね。歌詞カードをつけなかったのは正解じゃないんですか。
そう言ってくれるとうれしい。歌詞は流れていけばいいかなって思う。目で追うと、しっかりしたことを書いていないと面白くないでしょう。どちらも正解じゃない?という曖昧さが好きなのね。
――なるほど。マダムの歌はいつも「今」を歌っている印象があるのですが、そこに秘密があるのかもしれません。繊細な心持ちは感じるのに、感傷にひたったり、過去を懐かしんだりはしていない。
昭和歌謡も好きじゃないんだよね。以前「舟唄」をカヴァーした時もそういう意識はまるでなくて、小学校の時から好きで歌っていたのがカタチになったというだけだった。
――シンガーで影響された人は誰ですか。
うーん、好きなギタリストならいくらでも名前をあげられるけど、誰かのコピーをしたという記憶はないんだよね。今考えれば、ライトニン(ホプキンス)にしても歌は大きかったなとは思う。ギターと歌とあの全体を含めた何かに惹かれたわけだから。
――ブルースには歌とギターの一方だけを取り出して云々できないところがありますね。自分の中のどういう意識と合致したかによって、ブルースの表現って違ってくると思います。
そこは、やっぱり“質”なんだろうね。

◆改めてマダムギターとブルース
――そもそもなぜブルースに出会ったんでしょうか。
サークルの先輩にツェッペリンとかクラプトンを聴けと言われてその流れだよね。B.B.(キング)の『ジャングル』でぺんぺんのギターの音を聴いたときはショックだった。すぐには飛びつかなかったけど、これってなんだろう?とずっと引っかかっていて、次に『ライヴ・アット・ザ・リーガル』を聴いて決定的にはまった。それからどんどん南部に入っていったのね。ゲイトマウス(ブラウン)はジャズ好きなおじさんに誘われて観に行ったんだけど、「スゲぇ!何!このおっちゃん!」って一発で虜になって!
――やっぱり本物のブルーズマンを目の前で観た体験は大きい!
そう、いろいろ体験できたのはラッキーだったよね。今も、何年かに一回考えるのね。もっとアール・キングのようにシンプルにやってみようとか、ゲイトマウスみたいにジャジーな音を入れてみようとか。それでコードの練習をしたりとか。『在庭坂』に関してはシンプルなところが反映されていると思う。
――指弾きはいつから?
ある日ピックが使いづらいなと思って指で弾いたらすごくいい音が出たことがあったのね。その後にスティーヴィー・レイ・ヴォーンが出てきたりして、指弾きのいる人いるんだ!と確信してそれからだね。

◆日々の生活で精一杯!
――先輩の女性ミュージシャンを見渡すと、金子マリさんはじめシンガーは多い。でもマダムのようなギタリストは日本のロック史においては、まだまだ少ないですよね。
昔は、“女バンド”って好きじゃなかったのね。だけど今やっている「パンチの効いたブルース」は、自然なんだよね。傍目から見ると“おんな・おんな”しているかもしれないけど、ベースの“かわいしのぶ”にしてもドラムスの”GRACE”にしても、いろいろな現場をくぐり抜けて今があるから。だから、このバンドは続けていくと思う。
――月並みですが、これからの展望をきかせてください。
それが毎日のことでいっぱい、いっぱいでさぁ(笑)。男と女と分けたくはないけど、特に女性にとって、どこに住んで、どこでごはんを食べて何を歌うかは大きいでしょう。ますます暮らしの中にあるものが大事になってきたのよ。
外に向かって広げていこうとするより、むしろ私はだんだん範囲を狭めて大切な人や、大切なものとかかわっていきたい。繰り返しになるけど、在庭坂に自分なりのユートピアを作って、そこでの暮らしっぷりを自慢したいのね。音楽も、マニアじゃなくて、普通に暮らしている人たちに聴いてほしいな。
――いつかブルース・アルバムにも期待してます!
(2017年9月 西荻窪にて インタビュー:妹尾みえ)
※撮影:福生ブルースフェスティバル、すみだストリートジャズフェスティバル
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マダム・ギター 長見順/在庭坂~Underground Utopia~
(Nyon Records NJ-006)¥2,700+税
1. ハナウタ
2. ノスタルジアブレインジャッパーシチュー
3. くーそー女
4. レゲエ熊
5. ラッキイ
6. オエー
7. GIブルース
8. 誰が引いたか県境恋唄
9. ピンクのシャドウ

10. ワンデー
11. ジジノカン
12. 乾杯のうた
13. いっさいがっさい句〈ボーナストラック〉
プロデュース:近藤達郎、長見順